●KID A
Radiohead
というイギリスのバンドの新譜が出た。
KID A
というそのタイトルは「恐怖の大王」(ノストラダムスだ)の意味で、ジャケットはその雰囲気を醸し出している。もちろん「少年A」の意味はないが、何か共通するものを感じるのはボクだけだろうか。発売と同時にイギリスのチャート1位に登場したことから見ても、その関心の高さがうかがえ、日本でも
Radiohead
を信奉(笑)している人は多いようだ。
SNOOZER
のタナソウ(日本版の解説も書いてるけど)なんて、病気か?と思えるほどだ。
ボクがこのアルバムを最初に聴いたのは池袋のタワーレコード。店内に流している場所にたまたま居合わせたときだった。ある種の暗いトーンがあり、ボーカル(トム・ヨーク)の声にも特徴があるので
Radiohead
の新譜であることはすぐにわかったが、いい意味で「なんだこりゃ」状態になってしまった。音楽の持つ力に圧倒された、と言っていいかもしれない。
日本先行発売だった(最近、これが多いのよね)ため、2週間ほど経って、イギリスに注文していた件の
CD
が届いたところで、はじめて通しで聞いた。
レコード店の店頭で聞くといいように思えたものが、家に帰って聞くとたいしたことない、ということはよくある。ほとんどがそうだ、と言っても誇張ではない。KID Aも店頭で聞くほどのパワーは感じられず、飽きっぽくなった最近の常で、
CD
ウォークマンを会社に持ってきたのは1度だけ、家でもそれほど聞かなくなった。しかし、不思議と「飽きた」とまではいかない。
KID A
は、これまでになくコンピュータ/スタジオワークに執着している。いや、執着しているというより、作っていくうちにどうしようもなくなって弄くり倒したという雰囲気だ。
Cupid & Psyche 85
の頃の
Scritti Politti
のような、「第三の男」的結果を予想した偏執狂的なプログラミングとは違って、「作っていったらこうなっちゃった」という「カサブランカ」的な現場ご都合主義な色合になったと言ってもいい。トリュフォーは映画を撮るとき、明るいものはプロットをしっかり決めてからかかり、暗いテーマのものはその場の雰囲気で作り上げていく、という方法を採っていたが、これに類似するのかもれない。ただ、明るい/暗いで言えば、決して明るくはないが、沈み込むようなダークさに支配されているわけでもない。ただ、逃げ場がなく、カオスであることはその通りだろう。
元々が音楽の力に真っ向から対決するグループなだけに、この
KID A
もアシッドだとは思っていないのだろうが、プロセスの異常さによって充分過ぎるくらい麻薬的な仕上がりになったことで、余計に歓迎を受けたのだろう。
曲がどうの、とはいわない。
King Crimson
の
Construction of Lights
より数段いいし、もうすぐ出る
U2
の新譜よりいいだろう。
Beck
の
Odelay
や
Chibo Matt
のセカンドと比べても優れているかもしれないが、
Alanis Morisette
のファーストには及ばないと思う。
エレクトロニクスがどうのとか今年の最高傑作とかこれはテクノを超えてるとか、いろいろ言われているようだが、この救いようがない音と気分的に合致する人が多いのは悲しむべきことなのかどうか? 下手したら「ぢごく」だよ、これは。明るい開放的な音というのは巷にあふれているから自省的な音があってもいいのだろうが、KID Aの「ここちよさ」は危険性をはらんでいるように思える。だからこそ、向き合わなくちゃいけないんだろうな。
20/0ctober/2000 (in1934 Empress Michiko was born!)
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