Mac-2 (Apple Design)
 Macintoshの初期のデザインは、Frog Design (LINK) のHartmut Esslingerを中心としたプロジェクトで行われた。キートップのアルファベット類もそのころから引き継がれている(個人的にはiBook等で引き継がれなかったのは悲しい)。「Snow White」というそのプロジェクトはデザイン的には大きな成功を収め、「Macintosh SE」という機種はニューヨーク近代美術館の永久収蔵品となっている。「Classic」あたりからはAppleの社内デザインに切り替わってそのデザイン的密度は失われていくが、Jonathan IveがApple Designに加わってからはAmellio時代にSpartacusを生みだし、Jobsが復帰してから後は、スケルトン流行の発端となった「iMac」、ブルー&ホワイトのG3(通称ポリバケツ)、PowerBookのニューライン、そしてiBookやG4 cubeといったセンセーショナルなデザインで話題をさらい、現在に到っている。
 いまでこそ様々なコンピュータメーカーがユニークなデザインを採用しはじめているが、iMac以前の他のコンピュータメーカーのマシンは機械を納める「ハコ」でしかなく、デザインのかけらもなかった。そんなマシン、デザイナーが認めなかったのは当然だろう。そして、そのデザインのなさにWindowsがばっちりはまった。さすが、Microsoftである(笑)。前述のFrog Designは台湾Acer社のPCをデザインした過去がある(Aspireシリーズ〜現在のマシンラインナップに関係したものはないようだ)。しかしWindowsのデスクトップを嫌い、専用のクールなメニュー画面を登場させていた。気持ちはよくわかる。クールなデザインのマシンにWindowsが合わないと思うのはボクだけではなかったようだ。

 さて、Spartacusだが、なかなか話題のマシンだった。Appleの20周年を記念して出したマシンで正式名称は「20周年記念Macintosh」と言った。88万円(米国では7,500ドル)という気狂いじみた価格、予約販売のみ、10,000台限定で生産が終わったらラインを壊す……ということで、前情報では非常に手に入りにくいのではないか、買っておけば将来プレミアがつくに違いない、などという話がまことしやかにネット上を飛び交った。マックユーザー羨望の的になるのも当然の成り行きだ。しかし蓋を開けてみると……。売れ残った。不具合の話が相次いだ。発売されて1年以上たってから安売りされた。不具合を完全に解決することができず新しいマシンと交換するプログラムを開始した(アメリカのみの話)。日本では、安売りがはじまってのち88万円で買ったユーザーにクリスタル製の置物がプレゼントされて失笑を買った。ボクは22万円で買ったので偉そうなことは言えないが、デザインだけのチープなマシン、Boseのオーディオ回路は安いラジカセ並、サブウーファーを蹴ると不具合の最大点であるノイズが一時的に消えるなど、高級エグゼクティブなマシンというイメージからはほど遠い、などの噂が決して嘘ではないことは証明できる。しかし、しかし、デザインはいい。さすがApple(笑)。
 Jobsがやってきて「iMac」を発表した。今までのグレーなオフィスイメージからカラフルでファンシーな「家のコンピュータ」への見事なイメージ転換。みんなが熱狂した。ボクも興奮した。売れた。Appleが瀕死の状態から息を吹き返した。我が家にある初代iMacは妻から「かわいい」「頭がいい」といわれながらまだまだ現役だ。幸せなマシンである。後を追うようにして様々なコンピュータメーカーから様々なデザインのコンピュータが発表されだしたのはみなさんご存じの通りである。
 新しい大画面のPowerBook、四隅を突っ張らせた新しいG3、色を変えてクールになったG4、ファンシーなiMacのノート版であるiBook、と魅力的な製品群を送り出し続け、OSも順調に発展を続けた。業績は見通しを上回り、株価も最低の時期から比べると10倍以上になっていた。
 そして2000年夏、また新たなマシンをJobsは得意げに投入した。PowerMacintosh G4 Cubeである。いままでのコンピュータのイメージをがらっと変える8インチ四方のキューブ。美しく、静かで、しかも速い。わずかに他より高価であったが、しかし決して高嶺の花というほどではない。売れるだろう、と思うのも当然だ。だが、売れなかった。4半期の業績は予想を下回り、株価は急落して1日で半分になった。
 Spartacusの悲劇が繰り返されるのか? いや、そんなことはない。Jobsはこのシェイプに執着があるようで、安価なCubeを提供するつもりのようだ。
 さて、Cubeの話題も楽しいものが多く伝わってきている。透明の樹脂を成形する際に避けて通れない「モールドライン」がキズついているように見え、オーナーの満足度を下げた。タッチするだけで光る非常にクールな電源スイッチ、人が通るだけでON/OFFをし始めた。最悪なのは不規則にマシンがON/OFFを繰り返すようになり、まったく作業にならないことだった。作業できないコンピュータに20万もの大金は払わないのが普通だ。Appleが開設したBBSにも文句が大量に集まった。
 次のCubeは大丈夫だろう。ダメだったら、それこそSpartacusの再来だ。
 とにかく、しかし、デザインはいい。
 JobsがAppleを放り出されて興したNeXT社、そこから出したのもFrog Designがデザインした黒い立方体だった。たしか、「NeXT cube」という名前だった。非常にいいデザインで、当時羨望の的だった。しかし、やはり高価で収益があがらず、ハードウェア事業から撤退することになる。NeXT stepというOSを売るソフトの会社となり、PCに載せるようになった。しかし、メジャーにはならなかった。そして、Appleに買収された。
 しかし、しかし、デザインは大切だ。
(つづく)

31/0ctober/2000 (in1937 Tsuge Yoshiharu was born!)

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