●文字(1)
 世の中には好きなものがたくさんある。これまで書いてきたものもそうだ。車、時計、マック、リモワ……。他にもたくさんあるのでこれからも書いていこうと思うが、今回は「文字」である。「活字」といってもいいし「フォント」と言ってもいい。そして、これらを美しく並べる行為=組版/タイポグラフィーも好きだ。
 好きであると、その中で優れているものには尊敬を払うし、そうでないもにに対しては憤慨し、時として怒りを覚えたり憎しみを持って接したりすることを制動できないことさえある。
 文字に関しては朗文堂(LINK)の仕事に尊敬を払ったり、聚珍社(LINK)の府川充男が持つ知識に感服したり、エピステーメーにおける杉浦康平のエディトリアルデザインに変革を見たり、VDT表示文字における平木敬太郎(LINK)の試みに感服したりしている次第である。文字にはうるさいぞ〜(笑)。
 そんなわけだから嫌悪するものももちろん多い。いちいち上げたらきりがないが、近頃のデザイナー気取りの連中の組版知識のなさは目に余る。自分でマックに向かい、QuarkXPressでテキストを流し込んだりしているのだろうが、組版設計から入らずに、ページレイアウトから入るのがまずいのだろう。いや、ページレイアウトから入っても組版の基準を自分なりに体得していさえすればあんなことにはなるまい。これについては文字組版の知識を得ようと努力しさえしていれば自然に正常になってくるはずだから「しょうがないな〜」と暖かく見守ることもできるし、そういったデザインを否定し続けていれば自然とそこに近づかなくなるのだから、実害という意味では小さいと言っても構わないだろう。しかし「こんなもんでいいか」デザイン、ボクは許しはないぞー!

 さて、本題である。
 「実害」と言う意味で目に付くのは、「MS P明朝」「MS Pゴシック」である。パソコンを使わない、またはMacintoshしか使っていない人は「何それ?」と思うだろうが、Windowsをお使いの方ならおなじみの筈である。「MS」はMicrosoftの略号、「P」はプロポーショナルの意味である。ボクは主にMicrosoft Wordで作られる、これらのフォントで組まれた文章を見るとき、平静を装ってはいるが、実は激しく怒っている。使う人間にではない。これらのフォントを開発し、WindowsのデフォルトにしたMicrosoftに対してである。

 Microsoftはご存じだろうが、「プロポーショナル」って何?という方は多いだろう。

 日本語の漢字やかなは、正方形の中に文字をデザインしていくことで一文字一文字が成立している。サイズを指定する場合も、もとの正方形の一辺の長さを基準にしている。欧文は和文にある正方形という概念がなく、文字の高さでサイズを測る。「
l」と「y」では上と下で出っ張り方が違うし、「Q」と「x」ではその高さが全く違うから、どうするんだ?とお思いだろう。答えは「適当」だ(笑)。とはいうものの12ポイントより8ポイントの方が大きいなどということはないから「サイズを決める基準がフォント毎に違う」というのが正しい。
 高さが決まったら今度は幅だ。日本語のフォントで「II」と書けば離れているが、欧文で「
II」と書くとくっつく。和文で「XX」と書けば「II」と同じ幅を使うが、欧文で「XX」とすると「II」より幅が広くなる。この、欧文におけるキャラクター毎に幅が違う状態での組版、これを「プロポ−ショナルに組む」という。活版の時代から欧文はプロポーショナルに組むことが基本であるから(というかプロポーショナルでない=等幅は、プログラムを組むときぐらいしか用途がないし、第一非常に読みにくい)WindowsもMacintoshも欧文の仕様ではプロポーショナルなフォントがデフォルトになるのは当然のことだし、そうでなかったら怒りを買っていたかもしれない。タイプライターの等幅文字も味があっていいが、DTPが成立した背景にプロポーショナルなフォントがあったことは間違いない。

 プロポーショナルは、印刷物に近い欧文を組むにあたっては必要条件とも言うべきだが、和文ではどうだろう。次回に検証してみたいと思う。
(つづく)

14/November/2000 (in1840 Claude Monet was born!)

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