●文字(2)
 さて、続きである。プロポーショナルは、印刷物に近い欧文を組むにあたっては必要条件とも言うべきだが、和文ではどうだろう。
 まず、お近くにある新聞や書籍をご覧いただきたい。文字毎に幅は異なっているだろうか。だいたい、縦組みして幅が異なっていても意味がないので、縦組みの新聞/書籍で文字毎に高さが異なっているものを探していただきたい。まずないはずだ。
 横組みとなると欧文と同じ条件であるから文字の種類毎に幅が異なっているものを見つけることはできるだろう。広告のヘッド/ボディーコピーであったり、書籍のカバーにあるタイトル文字であったり、探すのに苦労はしないはずだ。しかしだ、大量の文字を読ませるための書籍の本文にそれを見つけることはできるだろうか? そう見えるものはあるかもしれないが、中に欧文が含まれる場合、欧文のプロポーショナルのためにくっついたり広がったりしているのであって、「文字毎」ではないはずだ。
 元来、和文の活字が正方形であったため詰めることが不可能で、写植の世界になってはじめて「読みやすさ」ではなく「デザイン的な平滑度」を求めて欧文のプロポーショナルにあたる「ツメ組み」が行われるようになった。「デザイン優先、読ませること二の次」であるロゴ、タイトル、広告に多用され、それはたしかにカッコよかった。
 ツメ組みはデザイン的なセンス、意味のつながり方のちがいによるツメ方のちがい、場合によっては文字毎にサイズを変えて組むなど、きれいに組むにはかなりの技量が必要となる。下手な人が下手にツメると目も当てられないことになる。写植の時代は写植オペレータの技量にも大きく影響され、DTPが主流となった現在に置いてはDTPオペレータ(=多くの場合はデザイナー)の技量によってその完成度は大きく左右される。

 そんなツメ組の自動化は可能なのだろうか。自信を持って「可能だ」と言うことはできないが、絶対不可能だとも言えない。手動写植の時代にはツメ組用の仮名文字盤が存在していたし、電算写植の時代となっても同様なものはある。だから、「可能」なのだが、文字ごとにツメのデータを持っていたとしても、「し」と「て」の間はくい込みによってかなり詰めることができるし、「し」と「ん」だったらそんなに詰められない。同様に「ん」と「て」だったら詰められるが、「か」と「て」では詰められない。となりにくる文字によって微妙にツメ方を変えなくてはならない。欧文ではこれらもデータとして持ち、組まれるのだが、和文ではそこまでできていない。そんなことを自動化するのだったら、もっと他に自動化すべきことがあるからだろう。
 その程度のツメで組まれたものは、下手な人が下手に詰めたよりはまともかもしれないが、必ずバランスを失っている。ましてや、大量の文字を読ませるための文章に使われたらたまったものではない。だから、ツメ組を長い文章に使うことがあってはならなかった。プロの世界での常識だ。

 それを破ったのが前回苦言を呈した「MS P」の書体だ。
 文字を愛し、可読性の高さ(読みやすさ)を考え、歴史的な事柄に敬意を払うのならば、「MS P」は存在できなかったはずだ。欧文での常識を、和文の常識にそのままあてはめた、安易としか言いようがない「MS P」が、日本語の活字文化の破壊につながることをこれをお読みのみなさんには知っていただきたい。そして、Windowsを使わなければ仕事にならない方もこのことは頭の片隅に置いておいて欲しい。
 ビル・ゲイツを憎むあまり(笑)こんなことを言っているのではない。ただ、Microsoftの企業文化がその程度でしかないことは確かだろう。
 もし、あなたが、美しさや優しさ、シンプルであることやかっこいいことに敬意を払うのなら、「MS P」を使わないことだ。Windowsを使っている以上、それは大変面倒なことだが。

追記:今回と前回に関しては、HTMLでの<tt>タグを使い、ブラウザ上で等幅フォントが使われるようにしてある。そのことがおわかりになっただろうか?

24/November/2000 (in1864 Henri de Toulouse-Lautrec was born!)

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