いったい彼らはいくつなのだろう。81年に活動開始だからもう20年だ。いいオヤジだぜ。もちろんそのころ大学生だったボクも間違いなくオヤジなのは言わずもがなだが。
　バーナード・サムナー（G/Vo）：1956-01-04、ピーター・フック（B）：1956-02-13、ステファン・モリス（Ds）：1957-10-28、ジリアン・ギルバート（Key）：1961-01-27。みな結婚し（ジリアンとステファンは夫婦）、子どもは総勢11人だ。2001年のフジロックに出演するのに来日したが、バーニー（バーナード・サムナーの愛称）は東京滞在中キディーランドで買い物をしたという話だ。

　それはそれとして。
　「クリスタル」のプロモーションビデオには、おそらく、メンバーが誰も出ていない。若い全くの別人が曲に合わせて歌い、弾き、叩いている。ニュー・オーダーを知らない若い世代が見たら、間違えても不思議はない。嘘つきだ。バスドラの前面には「The Killers」とあるから、見ているアンタらが勘違いしてるだけでしょ、とでもいうのだろうか。
　ちなみにセカンド・シングルの「60 Miles An Hour」にもメンバーは顔を出さない。「熊と暮らす科学者」が主人公のお笑いビデオで、いままでの彼らのビデオにはあり得なかった展開に驚かされる。

　さて、2001年8月22日に日本先行発売されたニューアルバム「ゲット・レディー」だ。待ちきれなかったボクは、英国のとあるサイトで売られていたプロモーション盤（£15）を買った。１曲目の「クリスタル」はアルバムバージョンで、シングルバージョンに比べれば悪くない。前奏部が付き、The Cure(LINK)の「A Forest」に激似のインストが後ろに付け加わった関係でずいぶんと印象が違う。アルバム全体としてはイマドキのギターバンド的でありながら音が80年代を引きずっているという感じで、Blue Monday以降のエレクトロ系から入ったリスナーにはかなりの違和感があるだろう。かといって、ジョイ・ディヴィジョンから聞いている人が受けつけないこともある。ボクの印象は、へなちょこ。「最高！」という意見も聞かないではないが、ニューオーダーというノスタルジーがそう感じさせたている気がしてならない。
　プライマル・スクリームのメンバーやスマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンが参加していることが話題だったが、結局は１曲ずつ。ケミカル・ブラザーズとの共作もあると噂されたが、アルバムには入っていない（Here To Stayという曲で、映画「24 Hour Party People」(LINK)に使われ、次のシングルになるとの噂だ）。正直いくぶんか拍子抜けの感は否めない。

　時代は、彼らに何を投げかけたのだろう。酒とパーティーに溺れた80年代。出発点であり、今はもうない伝説のレコードレーベル「ファクトリー」の借金のために稼いだものが吸い取られ、債権者から危うく私財さえ奪われそうになるなど、有名な割には辛い日々が多かったようだ。ライブも「金のため」と割り切っていたという話だから、実は演奏さえ苦痛だったのだろう。幸いロンドンレコードと契約が成立して前のアルバムを出した後は、メンバー同士顔を合わせることもなかったというのも、過去の苦痛によるものだと思える。
　再結成（というか、解散はしていないのだが……）の経緯はよくわからない。メンバーは、「自然と」と話しているが、そんな簡単な話であるわけがないと思うのは普通だろう。ただ、どうやら、彼らは演奏を楽しんでいるようなのだ。「3 16」のレディングフェスティバルでの演奏を見ても、何もライブであんなにはしゃがなくてもいいだろうとは思うのだが、本気で楽しんでいる風に見える。しかも、エレクトロ系の曲よりドラム／ギター／ベースが前面に出ている曲の方がノリがいい。エレクトロの名曲「Bizarre Love Triangle 」なんて聞くに堪えない。
　ウソかホントか、「ゲット・レディー」もエレクトロっぽくしようと思ったが、プロデューサーのSteve Osbourneがいまどきエレクトロもないだろうということでこうなった、などとバーニーが言っているが、たぶん口から出任せだろう。彼らは、こうしたかったに違いないのだ。
　バンドという形態は今も昔も問題が付き物なのは言うまでもない。ニューオーダーは、やっとバンドの楽しさを発見してしまった。バンドの悲惨さを味わい尽くしたことがこれまでの音を作ってきたのだとしたら、音が変わるのはいたしかたない。ニューオーダーにとって、それがいいことなのか、最悪のことなのか。ボクは悲しむべきか、喜ぶべきか。それがわかるときはそう遠くない未来にやってくるだろう。